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外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言 (28 ページ)

公開元URL https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20250707_neurology_seisakuteigen.pdf
出典情報 「外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言」発表(7/7)《国立循環器病研究センター》
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2)課題
・病院食価格の長期据え置きと給食の持続可能性

・入院患者の低栄養リスクと栄養密度の問題

日本の入院時食事療養費(患者負担額)は長年に

高齢入院患者を中心に、低栄養やサルコペニアのリ

わたり 1 食あたり 460 円に近い水準で運用されて

スクが高いことが報告されている。しかし現行の病院

きたが、令和 6 年(2024 年)に約 7 年ぶりとなる

食では、標準的な栄養量を提供しても患者の実際の摂

見直しが行われ、患者負担額が 460 円から 490 円

取量が不足するケースが多い。特に食欲不振や嚥下障

に 30 円引き上げられた。さらに令和 7 年(2025

害のある患者では提供食の何割かしか食べられず、結

年)には追加で 20 円の上乗せが行われ、1 食あたり

果的に栄養不良に陥りやすい。嚥下調整食自体、調理

510 円となった。しかし、近年の物価や光熱費、人

過程でエネルギー・栄養密度が低下しがちであること

件費の高騰を考慮すると、これらの改定幅では病院給

も問題である。現在の基準では嚥下食も常食と同等の

食部門のコスト増を十分に補填できないのが現状であ

栄養設計で提供されるが、より少量で高エネルギー・

る。実際、2023 年の全国調査によれば、通常食で

高たんぱく質を実現する基準や工夫が不足している。

も 1 食あたり約 764 円、嚥下調整食では約 840 円

低栄養のままでは嚥下リハビリの効果も上がりにく

ものコストがかかるとの報告があり、現行の公定価格

く、誤嚥性肺炎や延伸入院のリスクが増すため、栄養

や診療報酬上の評価だけではこの差額を埋めることが

密度を高める取り組みが急務である。

難しい。そのため、多くの医療機関が慢性的な赤字を
抱えており、質の高い食材調達や十分な調理人員を確
保し続けるのが困難になりつつある。特に嚥下調整食

・補助食のバリエーション不足と摂食率低下

は調理工程が複雑でコストが高いにもかかわらず、診

経口栄養補助飲料や嚥下補助食品の種類・風味の乏

療報酬上では「特別食加算」として 1 食あたり 76

しさから、患者が飽きて途中で摂取をやめてしまう「味

円程度しか加算されないため、通常食とのコスト差を

の単調さ」の問題がある。日本の市販補助食品は限ら

十分にカバーできていない。提供が増えるほど病院側

れた味(バニラ味、コーヒー味、果汁味など)が主流で、

の負担が拡大する構造になっており、このままでは嚥

長期利用者では特定の味に飽きて摂取量が落ちること

下障害のある患者に対し、安全かつ適切な形態の食

が指摘される。また嚥下食も画一的なメニューになり

事を継続的に提供し続けることが難しくなる恐れがあ

がちで、「食べる楽しみ」が減少し食欲低下を招いて

る。

いる。この結果、せっかく栄養補助食を用意しても患
者が十分に口にしないという事態に陥っている。補助
食品の嗜好性向上とバリエーション拡充がなされない
限り、摂食率低下による低栄養のリスクを十分に改善
できない。

6.脳卒中生存者の栄養管理
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