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外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言 (15 ページ)
出典
公開元URL | https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20250707_neurology_seisakuteigen.pdf |
出典情報 | 「外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言」発表(7/7)《国立循環器病研究センター》 |
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4.脳卒中後認知症の現状、課題、政策提言
1)現状
脳 卒 中 後 認 知 症(Post-stroke dementia:
と血管性認知症の混合病態(混合性認知症)も、血管
PSD) の 有 病 率 は 脳 卒 中 患 者 の 30 % と さ れ、 脳
性認知症の一病型として捉えられることが多い。従っ
卒中症例におけるその発症率は 1 年後の時点で
て、脳卒中後に認知症が顕在化したいわゆる「脳卒中
7 %、25 年 後 の 時 点 で 48 % と 報 告 さ れ て い る
前認知症」を血管性認知症に含めないのであれば、理
33
。PSD とは、このように一般的な病態であるに
論的に矛盾する可能性がある。このように、PSD には、
も関わらず、実はいまだその明確な定義が存在しな
さまざまな病態が含まれることとなる。それ故、それ
い。PSD と似た概念として血管性認知症と呼ばれ
ぞれの PSD の患者の予後についても非常に多様とな
る 病 態 が 存 在 し、 米 国 国 立 神 経 疾 患・ 脳 卒 中 研 究
り、どうしても捉え所がない病態にならざるを得ない
所(NINDS) と、Association Internationale
という問題がある(図 4)。
pour la Recherche et l'Enseignement en
脳卒中発症以前に認知障害をきたし得る病態がな
Neurosciences(AIREN) の 診 断 基 準 で は、 脳
く、脳卒中によって初めて認知症をきたした場合も、
卒中発症から 3 カ月以内に認知機能の急激な低下、
脳卒中の病型、病変の位置及び大きさに応じて、その
または認知障害の変動的で段階的な進行を認め、そ
症状、予後は大きく異なる。例えば、海馬梗塞によっ
の原因となる病巣が画像検査で確認された場合に血
て生じる PSD は、血管性認知症の一病型である戦略
管性認知症の一病型として認識すると述べられて
的な部位の単一病変による認知症に分類される。近時
。近年では、より広義で予防を重視する観
記憶障害を主徴とするアルツハイマー病と症候は類似
点 か ら、
「 血 管 性 認 知 障 害(vascular cognitive
するが、原則的に認知機能障害が進行しない、むしろ、
impairment:VCI)
」の概念が注目されている。こ
改善することもあるという点で異なる。また、前頭葉
の概念は、
軽度認知障害から重度の認知症に至るまで、
や深部白質の脳卒中の場合、注意障害や遂行機能障害
血管性脳損傷による認知障害全般を包括するものであ
をきたすことがあり、これらの症状は、やや気づかれ
る。一方で、臨床の現場では、脳卒中を契機に潜在し
にくい病態なので、注意して検索しなければ診断には
ていたアルツハイマー病が顕在化する例も多く見られ
至らないことが多い。
いる
34
る。このような場合、
その病態を「アルツハイマー病」
言語中枢を障害する脳卒中の場合、失語が生じる。
と呼ぶべきか、
「PSD」または「血管性認知障害」と
この場合、認知機能検査では低い点数を呈するため、
分類すべきかについて、再考が求められる時期に来て
認知症と診断されることがあるが、このような症例を
いる。
PSD に含めるべきなのか、脳卒中後失語として別の
孤発性アルツハイマー型認知症と臨床診断されてい
病態として捉えるべきなのか、この点についても明確
る患者においても、高齢者の場合は、老人斑や神経原
なコンセンサスがない。脳卒中後うつと PSD の鑑別
線維変化に加え、脳梗塞や脳出血などの脳血管病変の
に関しても同様である。程度の差こそあれ、脳卒中後
合併が必発である。そして、アルツハイマー型認知症
に抑うつをきたすことは非常に多いため、少しでもう
脳卒中後認知症の現状、課題、政策提言.4
15
1)現状
脳 卒 中 後 認 知 症(Post-stroke dementia:
と血管性認知症の混合病態(混合性認知症)も、血管
PSD) の 有 病 率 は 脳 卒 中 患 者 の 30 % と さ れ、 脳
性認知症の一病型として捉えられることが多い。従っ
卒中症例におけるその発症率は 1 年後の時点で
て、脳卒中後に認知症が顕在化したいわゆる「脳卒中
7 %、25 年 後 の 時 点 で 48 % と 報 告 さ れ て い る
前認知症」を血管性認知症に含めないのであれば、理
33
。PSD とは、このように一般的な病態であるに
論的に矛盾する可能性がある。このように、PSD には、
も関わらず、実はいまだその明確な定義が存在しな
さまざまな病態が含まれることとなる。それ故、それ
い。PSD と似た概念として血管性認知症と呼ばれ
ぞれの PSD の患者の予後についても非常に多様とな
る 病 態 が 存 在 し、 米 国 国 立 神 経 疾 患・ 脳 卒 中 研 究
り、どうしても捉え所がない病態にならざるを得ない
所(NINDS) と、Association Internationale
という問題がある(図 4)。
pour la Recherche et l'Enseignement en
脳卒中発症以前に認知障害をきたし得る病態がな
Neurosciences(AIREN) の 診 断 基 準 で は、 脳
く、脳卒中によって初めて認知症をきたした場合も、
卒中発症から 3 カ月以内に認知機能の急激な低下、
脳卒中の病型、病変の位置及び大きさに応じて、その
または認知障害の変動的で段階的な進行を認め、そ
症状、予後は大きく異なる。例えば、海馬梗塞によっ
の原因となる病巣が画像検査で確認された場合に血
て生じる PSD は、血管性認知症の一病型である戦略
管性認知症の一病型として認識すると述べられて
的な部位の単一病変による認知症に分類される。近時
。近年では、より広義で予防を重視する観
記憶障害を主徴とするアルツハイマー病と症候は類似
点 か ら、
「 血 管 性 認 知 障 害(vascular cognitive
するが、原則的に認知機能障害が進行しない、むしろ、
impairment:VCI)
」の概念が注目されている。こ
改善することもあるという点で異なる。また、前頭葉
の概念は、
軽度認知障害から重度の認知症に至るまで、
や深部白質の脳卒中の場合、注意障害や遂行機能障害
血管性脳損傷による認知障害全般を包括するものであ
をきたすことがあり、これらの症状は、やや気づかれ
る。一方で、臨床の現場では、脳卒中を契機に潜在し
にくい病態なので、注意して検索しなければ診断には
ていたアルツハイマー病が顕在化する例も多く見られ
至らないことが多い。
いる
34
る。このような場合、
その病態を「アルツハイマー病」
言語中枢を障害する脳卒中の場合、失語が生じる。
と呼ぶべきか、
「PSD」または「血管性認知障害」と
この場合、認知機能検査では低い点数を呈するため、
分類すべきかについて、再考が求められる時期に来て
認知症と診断されることがあるが、このような症例を
いる。
PSD に含めるべきなのか、脳卒中後失語として別の
孤発性アルツハイマー型認知症と臨床診断されてい
病態として捉えるべきなのか、この点についても明確
る患者においても、高齢者の場合は、老人斑や神経原
なコンセンサスがない。脳卒中後うつと PSD の鑑別
線維変化に加え、脳梗塞や脳出血などの脳血管病変の
に関しても同様である。程度の差こそあれ、脳卒中後
合併が必発である。そして、アルツハイマー型認知症
に抑うつをきたすことは非常に多いため、少しでもう
脳卒中後認知症の現状、課題、政策提言.4
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