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外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言 (25 ページ)
出典
公開元URL | https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20250707_neurology_seisakuteigen.pdf |
出典情報 | 「外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言」発表(7/7)《国立循環器病研究センター》 |
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6.脳卒中生存者の栄養管理
1)現状
・日本の病院食の価格と嚥下調整食の問題点
減退を招く場合もあり、十分な栄養摂取量確保が課題
となっている。
日本の入院患者に提供される病院食の費用(入院時
食事療養費)は、1 食あたり 640 円と公定されてお
り、患者が食材費・調理費の大部分(1 食 490 円)
・先進国との比較
を負担し、残りを医療保険が栄養管理費として負担し
欧米諸国や他の先進国においても、入院患者の栄養
ている。しかし、
近年の食材費や人件費の高騰により、
管理と嚥下障害への対応は重要視されているが、その
病院給食は提供コストが収入を上回る赤字状況に陥っ
アプローチには日本との違いが見られる。例えば、イ
ている。特に嚥下障害者用の嚥下調整食は調理に手間
ギリスでは NICE の栄養サポートガイドラインにお
がかかり、食材選定にも制約が多いが、通常食と同額
いて、入院患者を含む成人の低栄養リスク評価と介入
の費用内で賄わねばならない現状がある。このため、
が詳細に定められており、嚥下障害患者への栄養管
提供される嚥下調整食の質・量の確保に課題が生じて
理についても具体的な指針が示されている。米国や欧
いる。嚥下調整食は舌でつぶせる硬さや適切なとろみ
州でも、入院時の栄養スクリーニングは標準的に実施
に調整した食事であるが、一般に見た目や風味が損な
され、リスクの高い患者には経口補助食品(ONS:
われやすく、食欲を刺激しにくい傾向がある。実際、
Oral Nutritional Supplements) の 投 与 な ど 栄
テクスチャーを変更した食事は「味気なく栄養価が薄
養サポートが行われる。ある報告では、嚥下調整食
い」ものになりがちであり、患者に十分受け入れられ
を必要とする高齢入院患者の 54% に市販の高エネル
ないことが多いと報告されている。その結果、嚥下食
ギー・高たんぱく補助飲料が処方されていたとのデー
を必要とする患者は常食に比べてエネルギー摂取量
タがある。これは先進国において低栄養予防のための
が有意に低下し、低栄養のリスクが高まることが指摘
補助食品活用が広く行われている現状を示している。
されている。嚥下機能低下者では嚥下調整食の摂取に
さらに、国際的には嚥下食の統一基準として IDDSI
より低栄養やサルコペニア(筋肉減少)を合併しやす
(国際嚥下食標準化構想)が策定され、多くの国で採
く、QOL 低下にもつながっている。日本では 2013
用されている。IDDSI により食事のとろみや固さの
年に嚥下調整食分類(学会分類)が策定されるまで統
定義が標準化されており、施設間・国間で嚥下食の情
一基準がなく、施設ごとにばらつきがあった経緯があ
報共有が容易になっている。一方、日本でも学会分
るが、現在は国内でも統一分類に基づく嚥下調整食の
類 2021 が IDDSI と整合性を図る形で改訂される
提供が進みつつある。一方で、嚥下調整食は調理に特
など、国際標準に歩み寄っているが、現場への普及は
別な工夫が必要で、加工により 1 単位重量あたりの
発展途上にある。また、病院食の費用面では、日本の
栄養密度が常食より低下しがちであると報告されてい
ように公定価格が長年据え置かれているケースは少な
る。さらにペースト食などは見た目の単調さから食欲
く、多くの国では物価上昇や栄養価向上に合わせて予
脳卒中生存者の栄養管理.6
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1)現状
・日本の病院食の価格と嚥下調整食の問題点
減退を招く場合もあり、十分な栄養摂取量確保が課題
となっている。
日本の入院患者に提供される病院食の費用(入院時
食事療養費)は、1 食あたり 640 円と公定されてお
り、患者が食材費・調理費の大部分(1 食 490 円)
・先進国との比較
を負担し、残りを医療保険が栄養管理費として負担し
欧米諸国や他の先進国においても、入院患者の栄養
ている。しかし、
近年の食材費や人件費の高騰により、
管理と嚥下障害への対応は重要視されているが、その
病院給食は提供コストが収入を上回る赤字状況に陥っ
アプローチには日本との違いが見られる。例えば、イ
ている。特に嚥下障害者用の嚥下調整食は調理に手間
ギリスでは NICE の栄養サポートガイドラインにお
がかかり、食材選定にも制約が多いが、通常食と同額
いて、入院患者を含む成人の低栄養リスク評価と介入
の費用内で賄わねばならない現状がある。このため、
が詳細に定められており、嚥下障害患者への栄養管
提供される嚥下調整食の質・量の確保に課題が生じて
理についても具体的な指針が示されている。米国や欧
いる。嚥下調整食は舌でつぶせる硬さや適切なとろみ
州でも、入院時の栄養スクリーニングは標準的に実施
に調整した食事であるが、一般に見た目や風味が損な
され、リスクの高い患者には経口補助食品(ONS:
われやすく、食欲を刺激しにくい傾向がある。実際、
Oral Nutritional Supplements) の 投 与 な ど 栄
テクスチャーを変更した食事は「味気なく栄養価が薄
養サポートが行われる。ある報告では、嚥下調整食
い」ものになりがちであり、患者に十分受け入れられ
を必要とする高齢入院患者の 54% に市販の高エネル
ないことが多いと報告されている。その結果、嚥下食
ギー・高たんぱく補助飲料が処方されていたとのデー
を必要とする患者は常食に比べてエネルギー摂取量
タがある。これは先進国において低栄養予防のための
が有意に低下し、低栄養のリスクが高まることが指摘
補助食品活用が広く行われている現状を示している。
されている。嚥下機能低下者では嚥下調整食の摂取に
さらに、国際的には嚥下食の統一基準として IDDSI
より低栄養やサルコペニア(筋肉減少)を合併しやす
(国際嚥下食標準化構想)が策定され、多くの国で採
く、QOL 低下にもつながっている。日本では 2013
用されている。IDDSI により食事のとろみや固さの
年に嚥下調整食分類(学会分類)が策定されるまで統
定義が標準化されており、施設間・国間で嚥下食の情
一基準がなく、施設ごとにばらつきがあった経緯があ
報共有が容易になっている。一方、日本でも学会分
るが、現在は国内でも統一分類に基づく嚥下調整食の
類 2021 が IDDSI と整合性を図る形で改訂される
提供が進みつつある。一方で、嚥下調整食は調理に特
など、国際標準に歩み寄っているが、現場への普及は
別な工夫が必要で、加工により 1 単位重量あたりの
発展途上にある。また、病院食の費用面では、日本の
栄養密度が常食より低下しがちであると報告されてい
ように公定価格が長年据え置かれているケースは少な
る。さらにペースト食などは見た目の単調さから食欲
く、多くの国では物価上昇や栄養価向上に合わせて予
脳卒中生存者の栄養管理.6
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