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外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言 (19 ページ)
出典
公開元URL | https://www.ncvc.go.jp/hospital/wp-content/uploads/sites/2/20250707_neurology_seisakuteigen.pdf |
出典情報 | 「外見からの判別が困難な脳卒中後遺症の制圧に向けた提言」発表(7/7)《国立循環器病研究センター》 |
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5.脳卒中後肺炎/嚥下障害の現状、課題、政策提言
1)現状
脳卒中後の嚥下障害の割合は報告によってさまざま
期ではそれぞれ 75%46、53.5%47 に上昇する。嚥
だが、急性期 29 〜 67% 39、6 カ月後 13 〜 18%
下障害が低栄養を引き起こし、全身および摂食・嚥下
とされ 40、急性期に多く、経時的に改善する傾向を
関連筋群のサルコペニアを生じ、嚥下障害が悪化する
示している。テント上病変による嚥下障害は両側性の
という悪循環が生じる。また、嚥下障害があることで、
ことが多く、テント下病変による嚥下障害は、小脳
脳卒中に関連した肺炎を起こすことが多い。誤嚥性肺
0%、中脳 6%、橋 43%、延髄内側 40%、延髄外
炎は死亡率の増加や機能予後悪化に直結する脳卒中合
側 57% に合併したと報告されている 41。
併症であり 48、嚥下障害の適切なマネジメントが重
嚥下障害の診断のスクリーニング法として飲水テス
要となる。また、嚥下障害を持つ患者は不顕性の誤嚥
ト、反復唾液嚥下テスト、頚部聴診法、フードテス
も高率に認められるが 49、嚥下障害の病態はさまざ
トなどがある。飲水テストには、30ml 水飲みテス
まであるため、症例ごとの適切な評価や対応が求めら
トと、3ml の水を使用する改訂水飲みテストがある。
れる。しかし、現状では脳卒中後の嚥下障害へのマネ
他のスクリーニング法と併用すると有用性が高まると
ジメントに確固たるものはなく、2012 年のコクラ
される 42。国立循環器病研究センターでは頸部聴診
ンレビュー(急性期から発症 6 カ月後までの脳卒中
法と組み合わせて通常の 30ml 水飲みテストでスク
における 33 研究 6779 症例を解析)では、嚥下療法、
リーニングを行っている。反復唾液嚥下テストは、意
栄養投与方法、栄養補充の機能予後や死亡に対する効
識障害がなく理解力が保たれた例において特に有用で
果のデータは不十分であるとしている 50。また、本
ある。これらの方法は、マスクを装着したまま施行
邦の脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2019]
可能で、咳や痰を誘発するリスクが少ないことから、
においては、嚥下障害について「入院後 24 時間以内
COVID-19 対応下のような飛沫感染対策が重要な際
に嚥下に対するアセスメントおよび適切な対処を行う
にも施行できる。さらに詳細な評価を行う場合には、
ことが望ましいが、十分な科学的根拠はない(グレー
嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行い、その所見に基
ド C1)」とされていたが、2021[ 改訂 2023] 版
づき具体的な対策を講じることができる。また、スク
ではようやく「脳卒中患者では入院時に、栄養状態、
リーニングは多職種で行うことが重要であり、嚥下障
嚥下機能、血糖値を評価することが勧められる(推奨
害の検出のみならず嚥下障害に対する意識づけや多職
度 A、エビデンスレベル高)
」と記載された。今後さ
種連携につながる。
らなる脳卒中後の嚥下障害に対するエビデンスの構
脳卒中後の嚥下障害により生じる問題点として栄養
築、診療指針の確立が急務である。
障害・サルコペニアと肺炎が挙げられる。栄養障害
また、急性期脳卒中患者では、消化管に異常がなく
は、高齢者ほどリスクが高く、高齢者の脳卒中では低
とも意識障害や仮性球麻痺、球麻痺に伴う嚥下障害
栄養・サルコペニアの合併率は、急性期病院で、それ
によって経口摂取が困難となることが多く、8.5 〜
ぞれ 13.5 〜 17.8%43,44、34%45 であるが、回復
29% に経腸栄養が必要となる報告がある 51。脳卒中
脳卒中後肺炎/嚥下障害の現状、課題、政策提言.5
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1)現状
脳卒中後の嚥下障害の割合は報告によってさまざま
期ではそれぞれ 75%46、53.5%47 に上昇する。嚥
だが、急性期 29 〜 67% 39、6 カ月後 13 〜 18%
下障害が低栄養を引き起こし、全身および摂食・嚥下
とされ 40、急性期に多く、経時的に改善する傾向を
関連筋群のサルコペニアを生じ、嚥下障害が悪化する
示している。テント上病変による嚥下障害は両側性の
という悪循環が生じる。また、嚥下障害があることで、
ことが多く、テント下病変による嚥下障害は、小脳
脳卒中に関連した肺炎を起こすことが多い。誤嚥性肺
0%、中脳 6%、橋 43%、延髄内側 40%、延髄外
炎は死亡率の増加や機能予後悪化に直結する脳卒中合
側 57% に合併したと報告されている 41。
併症であり 48、嚥下障害の適切なマネジメントが重
嚥下障害の診断のスクリーニング法として飲水テス
要となる。また、嚥下障害を持つ患者は不顕性の誤嚥
ト、反復唾液嚥下テスト、頚部聴診法、フードテス
も高率に認められるが 49、嚥下障害の病態はさまざ
トなどがある。飲水テストには、30ml 水飲みテス
まであるため、症例ごとの適切な評価や対応が求めら
トと、3ml の水を使用する改訂水飲みテストがある。
れる。しかし、現状では脳卒中後の嚥下障害へのマネ
他のスクリーニング法と併用すると有用性が高まると
ジメントに確固たるものはなく、2012 年のコクラ
される 42。国立循環器病研究センターでは頸部聴診
ンレビュー(急性期から発症 6 カ月後までの脳卒中
法と組み合わせて通常の 30ml 水飲みテストでスク
における 33 研究 6779 症例を解析)では、嚥下療法、
リーニングを行っている。反復唾液嚥下テストは、意
栄養投与方法、栄養補充の機能予後や死亡に対する効
識障害がなく理解力が保たれた例において特に有用で
果のデータは不十分であるとしている 50。また、本
ある。これらの方法は、マスクを装着したまま施行
邦の脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2019]
可能で、咳や痰を誘発するリスクが少ないことから、
においては、嚥下障害について「入院後 24 時間以内
COVID-19 対応下のような飛沫感染対策が重要な際
に嚥下に対するアセスメントおよび適切な対処を行う
にも施行できる。さらに詳細な評価を行う場合には、
ことが望ましいが、十分な科学的根拠はない(グレー
嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行い、その所見に基
ド C1)」とされていたが、2021[ 改訂 2023] 版
づき具体的な対策を講じることができる。また、スク
ではようやく「脳卒中患者では入院時に、栄養状態、
リーニングは多職種で行うことが重要であり、嚥下障
嚥下機能、血糖値を評価することが勧められる(推奨
害の検出のみならず嚥下障害に対する意識づけや多職
度 A、エビデンスレベル高)
」と記載された。今後さ
種連携につながる。
らなる脳卒中後の嚥下障害に対するエビデンスの構
脳卒中後の嚥下障害により生じる問題点として栄養
築、診療指針の確立が急務である。
障害・サルコペニアと肺炎が挙げられる。栄養障害
また、急性期脳卒中患者では、消化管に異常がなく
は、高齢者ほどリスクが高く、高齢者の脳卒中では低
とも意識障害や仮性球麻痺、球麻痺に伴う嚥下障害
栄養・サルコペニアの合併率は、急性期病院で、それ
によって経口摂取が困難となることが多く、8.5 〜
ぞれ 13.5 〜 17.8%43,44、34%45 であるが、回復
29% に経腸栄養が必要となる報告がある 51。脳卒中
脳卒中後肺炎/嚥下障害の現状、課題、政策提言.5
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