よむ、つかう、まなぶ。
薬剤耐性菌問題に関する調査報告書 (2 ページ)
出典
公開元URL | https://www.jpma.or.jp/information/international/stop_amr/initiative/tv28hf0000002ykb-att/2506_amr.pdf |
出典情報 | 薬剤耐性菌問題に関する調査報告書(7/29)《日本製薬工業協会》 |
ページ画像
ダウンロードした画像を利用する際は「出典情報」を明記してください。
低解像度画像をダウンロード
プレーンテキスト
資料テキストはコンピュータによる自動処理で生成されており、完全に資料と一致しない場合があります。
テキストをコピーしてご利用いただく際は資料と付け合わせてご確認ください。
エグゼクティブ・サマリ
1.薬剤耐性(AMR)問題の現状と課題
1)AMR 問題の深刻さと新規抗菌薬の重要性
抗菌薬が効かなくなる AMR によって、感染症の重症化や死亡の可能性が高まります。2021 年には、世界中で
約 114 万人が AMR 感染症によって死亡しているとみられており、2050 年には AMR に関連する死亡者数が約
822 万人に達する可能性があります。世界規模で対策が進められているにも関わらず、日本の主要な病原細菌
による推定死亡者数は、横ばいまたは増加傾向です。抗菌薬の適正使用は AMR 対策の一つであり、薬剤耐性
菌の出現を遅らせる効果が期待されますが、薬剤耐性菌は自然発生的に生じ、さらに海外から持ち込まれるケー
スもあるため、予見できない感染拡大を防ぐためにも継続的に新しい抗菌薬を開発し、対処する必要があります。
2)新規抗菌薬の開発・上市の現状と問題点
日本では、適正使用の促進によって AMR 対策の進展がみられる一方で、抗菌薬市場が縮小し、さらに収益性も
期待しにくいことから、市場の魅力が低下し、新規抗菌薬の開発が進まず、研究開発力の低下を招いています。
実際、日本での新規抗菌薬の承認数は減少しており、諸外国と比較しても低調です。
3)開発・上市促進策の現状と課題
抗菌薬の開発・上市を促進するためのインセンティブ制度には、研究開発支援を目的とするプッシュ型と、承認後
の収益保証を目的とするプル型があります。プル型には、製造販売承認取得報償付与指定制度(MER:Market
Entry Reward)や定期定額購買制度(SM:Subscription Model)、収入保証制度があり、導入することで収益
予見性が高まるため、製薬企業が積極的に研究開発を進める動機付けとなります。日本では、COVID-19 パン
デミックの経験も踏まえ、プッシュ型インセンティブの充実が図られています。一方、プル型については、G7 各国
では、定期定額購買制度や収入保証制度などが実施されていますが、日本ではまだ十分な導入が進んでいませ
ん。このままでは益々日本のドラッグロスやドラッグラグが進んでしまうため、海外と足並みを揃えたプル型インセ
ンティブの導入が必要です。
2.提言
1)日本におけるプル型インセンティブ導入
プル型インセンティブの実施に必要な金額は、各国政府・WHO・研究者等が試算しており、論文によればグロー
バル開発に必要と報告されている MER は 22 億ドル、SM で 44 億ドルです。一方、日本の経済規模は G7 と
EU 各国・地域の GDP 比から算出すると全体の 9.8%となるため、ここから日本が分担すべき金額を算出する
と、1 薬剤あたり MER で 2.16 億ドル(約 324 億円)、SM で 4.22 億ドル(約 633 億円)となります。プル型イン
センティブ導入の効果について、回避される AMR の経済損失の大きさから想定するために、費用・便益比率を
ROI(Return on Investment)として算定・分析した結果、10 年間では便益が費用を 6 倍上回り、さらに 30 年
間では 28 倍となり、大きな投資対効果が期待できます。また、SM は既存の日本の制度と一部重複する可能性
があるため、日本では SM よりも MER を導入すべきだと考えられます。
2)MER 導入に向けた検討事項
今後 30 年間で 18 の新規抗菌薬が上市されるとして、MER 実施に必要な予算は、1 薬剤あたり、自社で前臨床
から開発する場合で年間約 195 億円、ライセンスインして Phase 2 から開発した場合で年間約 141 億円と試算
されます。これらの予算を確保するための財源としては、大きな医療費削減効果が見込まれるという観点での医
療費、革新的医薬品等の創出という観点での研究開発促進費、世界的な医療ニーズに対応するという観点での
国際貢献関連の財源が想定されます。このような財源の問題も含め、MER の導入実現に向けて早期に具体的
な検討を行い、結論を得ることが求められます。
1.薬剤耐性(AMR)問題の現状と課題
1)AMR 問題の深刻さと新規抗菌薬の重要性
抗菌薬が効かなくなる AMR によって、感染症の重症化や死亡の可能性が高まります。2021 年には、世界中で
約 114 万人が AMR 感染症によって死亡しているとみられており、2050 年には AMR に関連する死亡者数が約
822 万人に達する可能性があります。世界規模で対策が進められているにも関わらず、日本の主要な病原細菌
による推定死亡者数は、横ばいまたは増加傾向です。抗菌薬の適正使用は AMR 対策の一つであり、薬剤耐性
菌の出現を遅らせる効果が期待されますが、薬剤耐性菌は自然発生的に生じ、さらに海外から持ち込まれるケー
スもあるため、予見できない感染拡大を防ぐためにも継続的に新しい抗菌薬を開発し、対処する必要があります。
2)新規抗菌薬の開発・上市の現状と問題点
日本では、適正使用の促進によって AMR 対策の進展がみられる一方で、抗菌薬市場が縮小し、さらに収益性も
期待しにくいことから、市場の魅力が低下し、新規抗菌薬の開発が進まず、研究開発力の低下を招いています。
実際、日本での新規抗菌薬の承認数は減少しており、諸外国と比較しても低調です。
3)開発・上市促進策の現状と課題
抗菌薬の開発・上市を促進するためのインセンティブ制度には、研究開発支援を目的とするプッシュ型と、承認後
の収益保証を目的とするプル型があります。プル型には、製造販売承認取得報償付与指定制度(MER:Market
Entry Reward)や定期定額購買制度(SM:Subscription Model)、収入保証制度があり、導入することで収益
予見性が高まるため、製薬企業が積極的に研究開発を進める動機付けとなります。日本では、COVID-19 パン
デミックの経験も踏まえ、プッシュ型インセンティブの充実が図られています。一方、プル型については、G7 各国
では、定期定額購買制度や収入保証制度などが実施されていますが、日本ではまだ十分な導入が進んでいませ
ん。このままでは益々日本のドラッグロスやドラッグラグが進んでしまうため、海外と足並みを揃えたプル型インセ
ンティブの導入が必要です。
2.提言
1)日本におけるプル型インセンティブ導入
プル型インセンティブの実施に必要な金額は、各国政府・WHO・研究者等が試算しており、論文によればグロー
バル開発に必要と報告されている MER は 22 億ドル、SM で 44 億ドルです。一方、日本の経済規模は G7 と
EU 各国・地域の GDP 比から算出すると全体の 9.8%となるため、ここから日本が分担すべき金額を算出する
と、1 薬剤あたり MER で 2.16 億ドル(約 324 億円)、SM で 4.22 億ドル(約 633 億円)となります。プル型イン
センティブ導入の効果について、回避される AMR の経済損失の大きさから想定するために、費用・便益比率を
ROI(Return on Investment)として算定・分析した結果、10 年間では便益が費用を 6 倍上回り、さらに 30 年
間では 28 倍となり、大きな投資対効果が期待できます。また、SM は既存の日本の制度と一部重複する可能性
があるため、日本では SM よりも MER を導入すべきだと考えられます。
2)MER 導入に向けた検討事項
今後 30 年間で 18 の新規抗菌薬が上市されるとして、MER 実施に必要な予算は、1 薬剤あたり、自社で前臨床
から開発する場合で年間約 195 億円、ライセンスインして Phase 2 から開発した場合で年間約 141 億円と試算
されます。これらの予算を確保するための財源としては、大きな医療費削減効果が見込まれるという観点での医
療費、革新的医薬品等の創出という観点での研究開発促進費、世界的な医療ニーズに対応するという観点での
国際貢献関連の財源が想定されます。このような財源の問題も含め、MER の導入実現に向けて早期に具体的
な検討を行い、結論を得ることが求められます。