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薬剤耐性菌問題に関する調査報告書 (19 ページ)
出典
公開元URL | https://www.jpma.or.jp/information/international/stop_amr/initiative/tv28hf0000002ykb-att/2506_amr.pdf |
出典情報 | 薬剤耐性菌問題に関する調査報告書(7/29)《日本製薬工業協会》 |
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Appendix 1.
日本におけるプル型インセンティブ導入にあたって
必要な金額の考え方(詳細)
ここでは、日本におけるプル型インセンティブ導入にあたって必要な金額について、eNPV(後述)の考
え方を中心に解説します。
① 抗菌薬市場への投資判断の在り方
魅力ある市場というのは企業が成長・発展を遂げられる市場です。そのような活性化された市場を実現
するために投資は不可欠です。投資家が投資を判断する際、投資によって得られる利益を予測する必要
があります。この指標にはNPV(Net Present Value:正味現在価値)という指標が頻繁に用いられます。
NPVは、投資に対して期待される利益について、キャッシュフローを長期的に見て現在価値に換算した際
の価値の大きさを示しています。
しかし、抗菌薬を含む医薬品開発は、一般に、時間と費用を要し、成功する確率が低いという特徴があ
ります。医薬品のシーズを探す探索研究から、動物実験などにより有効性・安全性を評価する前臨床試
験、少数の健康な成人を対象に有効性等を確認するPhase 1、少数の患者を対象に安全性や用法・用量
を検討するPhase 2、患者を対象に有効性を確認するPhase 3といった各開発段階をすべてクリアして上
市に至る確率は、約3%とされています(前臨床から承認までの成功確率を乗じて算出)32。また、一つの抗
菌薬を開発するのに必要なコストは薬事申請までに約1.45億ドルとみられています32。
このように、プロジェクトの成功確率が低い医薬品ビジネスにおいては、プロジェクトの各フェーズにお
ける成功確率とNPVを設定したうえで、基準とする時点以後の各フェーズの確率とNPVを乗じた値の総
和であるeNPV(Expected Net Present Value:期待正味現在価値)という指標が、投資判断に用いられ
ます。つまり、eNPVによる投資判断では、開発成功時に期待される収益と、プロジェクトの成功確率、プ
ロジェクトが失敗した場合のコストとその確率を考慮することとなります。
収益に関しては、医薬品の将来の収益性を予測するために、GPYS(Global Peak Year Sales:ピーク
時予想売上高)という指標が用いられることがあります。上述のOuttersonの論文では、投資等を受ける
ために必要な開発魅力度としての抗菌薬の売上高の水準は、GPYSが19億ドルとされています。一方
で、実際の抗菌薬市場では、現在最も米国で売れているセフタロリンでさえ、年間売上額は1.44億ドルに
とどまっています。
そもそも十分な収益性が期待できず、低い成功確率も踏まえて大規模な開発コストがかかる現在の抗
菌薬市場では、企業が成長・発展を遂げていくとは考えられず、AMRの対策に必要な持続的な抗菌薬の
開発は滞っているのが現状です。
Outterson K. Estimating The Appropriate Size Of Global Pull Incentives For Antibacterial Medicines.
Health Aff (Millwood). 2021 Nov;40(11):1758-1765.
32
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日本におけるプル型インセンティブ導入にあたって
必要な金額の考え方(詳細)
ここでは、日本におけるプル型インセンティブ導入にあたって必要な金額について、eNPV(後述)の考
え方を中心に解説します。
① 抗菌薬市場への投資判断の在り方
魅力ある市場というのは企業が成長・発展を遂げられる市場です。そのような活性化された市場を実現
するために投資は不可欠です。投資家が投資を判断する際、投資によって得られる利益を予測する必要
があります。この指標にはNPV(Net Present Value:正味現在価値)という指標が頻繁に用いられます。
NPVは、投資に対して期待される利益について、キャッシュフローを長期的に見て現在価値に換算した際
の価値の大きさを示しています。
しかし、抗菌薬を含む医薬品開発は、一般に、時間と費用を要し、成功する確率が低いという特徴があ
ります。医薬品のシーズを探す探索研究から、動物実験などにより有効性・安全性を評価する前臨床試
験、少数の健康な成人を対象に有効性等を確認するPhase 1、少数の患者を対象に安全性や用法・用量
を検討するPhase 2、患者を対象に有効性を確認するPhase 3といった各開発段階をすべてクリアして上
市に至る確率は、約3%とされています(前臨床から承認までの成功確率を乗じて算出)32。また、一つの抗
菌薬を開発するのに必要なコストは薬事申請までに約1.45億ドルとみられています32。
このように、プロジェクトの成功確率が低い医薬品ビジネスにおいては、プロジェクトの各フェーズにお
ける成功確率とNPVを設定したうえで、基準とする時点以後の各フェーズの確率とNPVを乗じた値の総
和であるeNPV(Expected Net Present Value:期待正味現在価値)という指標が、投資判断に用いられ
ます。つまり、eNPVによる投資判断では、開発成功時に期待される収益と、プロジェクトの成功確率、プ
ロジェクトが失敗した場合のコストとその確率を考慮することとなります。
収益に関しては、医薬品の将来の収益性を予測するために、GPYS(Global Peak Year Sales:ピーク
時予想売上高)という指標が用いられることがあります。上述のOuttersonの論文では、投資等を受ける
ために必要な開発魅力度としての抗菌薬の売上高の水準は、GPYSが19億ドルとされています。一方
で、実際の抗菌薬市場では、現在最も米国で売れているセフタロリンでさえ、年間売上額は1.44億ドルに
とどまっています。
そもそも十分な収益性が期待できず、低い成功確率も踏まえて大規模な開発コストがかかる現在の抗
菌薬市場では、企業が成長・発展を遂げていくとは考えられず、AMRの対策に必要な持続的な抗菌薬の
開発は滞っているのが現状です。
Outterson K. Estimating The Appropriate Size Of Global Pull Incentives For Antibacterial Medicines.
Health Aff (Millwood). 2021 Nov;40(11):1758-1765.
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